国会質問

2015年05月22日

小中一貫校の制度化で学校統廃合が加速(文科委員会)

189-衆-文部科学委員会-11号 平成27年05月22日

○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
 学校教育法等の一部を改正する法律案を審議するに当たり、私は、全国でも先駆けて小中一貫教育を全市で導入してきた私の地元広島の呉市へc0349386_19273186先日視察に行きました。関係者の皆さんにお話を聞いてきました。そこでお聞きした実態も踏まえて、きょうは質問をしたいと思います。
 呉市では、小中一貫教育を取り入れたその狙いとして、中一ギャップの解消と自尊感情の向上を掲げています。文部科学省も、小中一貫教育等への取り組みが進められる背景として、中一ギャップへの対応を挙げておられます。
 大臣、中一ギャップとは何でしょうか。

○下村国務大臣 中一ギャップとは、一般的には、小学校段階から中学校段階に移行する過程におきまして、新しい環境のもとでの学習や生活にうまく適応できない状態が生徒指導面や学習指導面の課題となってあらわれる現象のことを指すものと考えます。
 具体的には、生徒指導面においては、中学校一年生になったときに、いじめの認知件数、不登校児童生徒数、暴力行為の加害児童生徒数が大幅に増加する傾向があることなどが挙げられます。
 また、学習指導面におきましては、授業の理解度や学校の楽しさ、教科や活動の時間の好き嫌いについて、中学生になると肯定的な回答をする生徒の割合が下がる傾向があることや、上手な勉強の仕方がわからないと回答する生徒が逆に増加する傾向があることなどが挙げられると思います。

○大平委員 生徒指導上の諸問題ということで、具体的には暴力行為、いじめ、不登校の三つが挙げられ、それらが中学校への進学を機にふえる傾向にある。そして、それを減らすために小中一貫にして、小学校から中学校への接続をスムーズにしようということが狙いだというお話でした。
 そして、呉市でも、暴力行為発生件数、いじめ認知件数などの数字が減少をし、学力が向上するなどの成果が上がっていると報告をされています。
 しかし、この中一ギャップそのもの、あるいは、それが小中一貫によって解消されたという点について、実際に毎日子供たちと接しておられる小学校、中学校の先生それぞれに私はお話を伺いましたが、少なくない疑問の声が寄せられました。
 あるベテランの中学校の先生は、中一ギャップという考え方自体が疑問だし、それを小中一貫という手段の問題で解決しようという発想は教師の敗北だと思うとおっしゃられていました。
 そこで伺います。
 文部科学省の国立教育政策研究所が平成二十四年六月に発表した「不登校・長期欠席を減らそうとしている教育委員会に役立つ施策に関するQ&A」というこの文章の中の「「中一ギャップ」の正しい理解」という項目に、中一ギャップについてどのように記述されているでしょうか。

○小松政府参考人 お尋ねの国立教育政策研究所作成の資料の中に、「「中一ギャップ」の正しい理解」という章がございます。ここのインタビュー形式の記事の中に、当初は、中学一年生で不登校やいじめの数字が急増することを指して用いられていたが、今では、小中間のさまざまな違いや、主に中学校で顕在化するさまざまな問題を一言で言いあらわす便利な言葉として広まっているという趣旨が説明されているところでございます。

○大平委員 局長、答弁を割愛されましたけれども、それに続いて、事実というより印象に基づく概念であり、言葉だけがひとり歩きし、それを解消すると称する取り組みが提案され、みんながうのみにするのは怖いと述べております。
 実際のデータもこの研究所では紹介をしながら、事実に基づく慎重で冷静な分析や評価が必要だということを文部科学省自身もお認めになっています。私も、そのとおりだと思います。
 その立場から、一つずつ確認をしていきたいと思うんですが、まず不登校についてです。
 小学校六年生から中学校一年生にかけて急増するというデータが中教審の答申の資料の中にもありますけれども、先ほどの「Q&A」の中には「「中一不登校調査」が明らかにしてきたこと」という項目もあり、そこでは何と紹介されているでしょうか。

○小松政府参考人 お答え申し上げます。
 「小学校時に欠席や遅刻早退等の目立たなかった児童が、中学校一年生になっていきなり「不登校になる」割合は、二〇~二五%程度にとどまる。「不登校」という基準で見ると小六と中一の間には大きなギャップ(不連続)が存在するかのようであるが、「不登校相当」という基準で見ると、むしろ連続性に注目した方がよいことがわかる。」こういう記述がございます。

○大平委員 答弁にもありますとおり、この研究所が述べているとおり、中一になって急激に上がるのではなくて、小学校からの問題が出た結果であり、連続性に注目をした方がよい、そういう分析でした。この点一つとってみても、中一ギャップという言葉で過度に強調することは避けるべきだと私は指摘したいと思います。
 さらに、いじめの問題について伺います。
 同じ中教審の資料の中に、いじめの認知件数が小六から中一にかけて急激に上がったというデータもあります。
 同じくこの研究所の「Q&A」では、児童生徒を対象にしたアンケート調査を実施し、その結果を紹介していますが、どんな結果と分析になっているでしょうか。

○小松政府参考人 お尋ねの資料におきましては、いじめの中で代表的ないじめとして、仲間外れ、無視、陰口というのを取り上げまして、これについて児童生徒を対象として被害経験の率を聞いたものが紹介されております。
 この点におきましては、被害経験は小学校四年生から中学校三年生にかけて緩やかに減少し、加害経験は小学校五年生から中学校一年生くらいまでがピークとなるという結果が示されております。

○大平委員 研究所では、こうした結果を紹介しながら、結果として、「加害経験・被害経験ともに、中学校一年生で明確にピークを迎えるという事実は確認できない。」と指摘をしています。
 このいじめの面でも、殊さら中一ギャップを強調することは、実態とも乖離があるし、対応策も誤りかねない、そういうおそれがあるということも私は指摘をしておきたい。過度に強調することは控えるべきだと思います。
 さらに伺いますが、そもそも、いじめの認知件数が多い学校が悪い学校、認知件数が少ない学校がよい学校だと評価すること自体、私は間違いではないかと思います。文部科学省は、学校評価、教員評価において、いじめの認知件数の多い少ないで評価をしているのでしょうか。

○小松政府参考人 お尋ねの点につきましては、いじめ防止対策基本法に基づきまして、平成二十五年の十月十一日に大臣決定といたしまして、いじめの防止等のための基本的な方針というものを定めております。
 この中で、各教育委員会が学校評価においていじめの問題を取り扱うに当たっての留意点として記しておりますのは、「いじめの有無やその多寡のみを評価するのではなく、問題を隠さず、その実態把握や対応が促され、児童生徒や地域の状況を十分踏まえて目標を立て、目標に対する具体的な取組状況や達成状況を評価」するという必要があるとしております。
 これは学校評価のことでございますが、もう一つ、教員評価につきましては、いじめの問題を取り扱うに当たっての同じく留意点といたしまして、「いじめの有無やその多寡のみを評価するのではなく、日頃からの児童生徒の理解、未然防止や早期発見、いじめが発生した際の問題を隠さず、迅速かつ適切な対応、組織的な取組等を評価する」必要があるというふうにいたしているところでございます。

○大平委員 私がお話を聞いたある小学校の先生は、次のようにおっしゃっておられました。毎学期ごとに、児童と保護者それぞれにいじめアンケートをとっている、しかし、そこでいじめがあると書いて提出した児童には、担任が個別に呼んで、それは先生も知っていることだから大丈夫よと話をすれば解決済みとなり、報告には上がらないんだとおっしゃっていました。
 国立教育政策研究所の「いじめの「認知件数」」というリーフの中でも、「「認知件数」が少ない場合、教職員がいじめを見逃していたり、見過ごしていたりするのではないか、と考えるべき。」「(教育委員会等が)「解消率」等を考慮しないで「認知件数」だけを減らすよう求めるのは誤ったいじめ施策、と考えるべき。」と強調をしています。
 一方では、いじめの有無やその多寡を評価するのではないと言いながら、呉市の資料にもあるように、小中一貫校の話になると、いじめの認知件数が減ったことを成果として強調するのはおかしいのではないかということをはっきり述べておきたいと思います。
 さらに、学力向上の問題にかかわって、学力テストの問題についてお聞きします。
 そもそも、学力テストの結果の公表について、文部科学省はどのように定めているでしょうか。平成二十七年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領では何と書いているでしょうか。

○小松政府参考人 お答えいたします。
 全国学力・学習状況調査の実施要領におきましては、まず、調査結果の公表のやり方といたしまして、市町村教育委員会はそれぞれの判断で学校の結果の公表を行うことができる、都道府県教育委員会は市町村教育委員会の同意を得た上で市町村や学校の結果の公表を行うことができるという取り扱いといたしております。これが公表の取り扱いでございます。
 その際の配慮事項といたしまして、平均正答率などの数値のみの公表は行わず、分析結果や改善方策を公表することなどを定めておりまして、これに基づいて、教育上の効果、影響等を踏まえ、地域の実情に応じながら、適切に説明責任を果たすということをお願いしているところでございます。

○大平委員 局長、ちょっと紹介されませんでしたけれども、「調査結果の公表に関しては、」ということで、「調査により測定できるのは学力の特定の一部分であること、学校における教育活動の一側面であることなどを踏まえるとともに、」というふうに実施要領の中でも書かれています。
 そもそも、学力テストの結果は、学力の特定の一部分で、教育活動の一側面でしかないということが言えると思うんですけれども、呉市でも、全国学力テストの点数が全国平均あるいは県平均より高いということで、小中一貫教育の成果だとしています。
 確かに小中一貫教育による成果もあったかもしれないんですけれども、これも実際の現場の先生方に状況を伺ってみますと、県教委あるいは市教委から、絶対に数字を右肩上がりにしなければならないとすごい圧力があって、本番のテストの前には何度も類似テストをやらせているというお話でした。
 ある中学校の先生からは、たまには普通の授業をやってよと生徒に言われてどきっとした、そんな声もあるなど、まさに学力テストで点をとるための授業運営をやっており、そうした取り組みの中で出た数字にどれだけの意味があるのか、そんな疑問も現場からは寄せられています。
 そもそも、この呉市の調査、データの報告にあるように、平均自体も上下するもので固定ではないし、その平均の上下などというのはあくまで相対的なもので、絶対的なものではないと思うんですね。平均そのものが上昇していれば、それより下であったとしても絶対的には学力が身についているとも言えるし、平均よりも上であったとしても、平均そのものが低下をしていれば、学力が身についているかどうかは疑わしくなるものだと思います。
 小中一貫教育の成果というのであれば、私は、子供たちが九年間の学びの中で学力がどれだけ向上したのかが問われるべき、はかられるべきだというふうに思います。こうした結果で小中一貫の成果だとするのは余りにも安易で乱暴な議論だということを指摘して、さらに次の問題に移りたいと思います。
 小中一貫教育には教育上の課題が多いことも指摘をされています。
 文部科学省が昨年度行った実態調査の内容を踏まえて発表された中教審の答申「小中一貫教育の制度化及び総合的な推進方策について」の中で、児童生徒に与える影響に関する課題として挙げられているのは、どういう内容でしょうか。

○小松政府参考人 多角的に課題等を挙げておりますので、その中で児童生徒に与える影響として主なものを申し上げますと、児童生徒の人間関係の固定化、あるいは転出入する児童生徒への対応といったところが、直接に児童生徒への影響として挙げられております。

○大平委員 教育上の課題、特に児童生徒に与える影響に関する課題、この点についても、私が聞き取りをする中で、先生方は共通して口にされておられました。特に、小学校高学年のリーダー性、主体性が育っていないという問題は皆さんがおっしゃっていました。
 ある小学校の教務主任も務めておられる先生は、以前には担任に対して、俺はそう思わないとか、自分はこうしたいと言う子たちが何人もいたが、今はおとなしいというか、幼いというか、とにかく言うことに従うという雰囲気になってしまっていると話しておられました。
 また、中学校の先生からは、自分の学校では小学校高学年のリーダー性を育むために、小中一貫校ではあるのだが、小学校は小学校で児童会をつくり、中学校は中学校で生徒会をつくってそれぞれが運営している、そういう独自の取り組み、工夫をする中で小学校高学年のリーダー性を育んでいるという、そんな工夫のお話も聞かせていただきました。
 ここまで質問をして、改めて大臣にお聞きします。
 これまで見てきたように、中一ギャップそのものの考え方が曖昧であり、いじめ認知件数や学力向上など、成果と言われているものも非常に不確かだ、また、少なくない教育上の課題も指摘されている中で、私はとても制度化できるようなものではないと考えますが、いかがでしょうか。御所見をお伺いいたします。

○下村国務大臣 どこの国でも、あるいは我が国においても、ある制度によって全てが全部解決する、全てがうまくいくということはあり得ないと思います。どんな制度改革をしても改善点、課題というのはやはり出てくるわけでありまして、それを絶え間なくよりよいものを目指していく、そういう改革を進めていく必要があるのではないかと思います。
 小中一貫教育については、多様な異学年交流の拡充による自己肯定感の高まり、地域の状況を踏まえた九年間を一まとまりとした学習の充実、そして、全国各地で取り組んでいる詳細な実態調査におきましても、小中一貫教育に取り組んでいる自治体の九割以上でその成果が認められるという結果が出ているわけでございまして、そういう意味で、文科省としては、この制度化を行うことによって、効果的な小中一貫教育を円滑に実施できる仕組みを整備することで、すぐれた取り組み事例を積極的に普及することなどによりまして、より児童生徒の教育に支障がないように、また、プラス点が全国に広がっていくような、そのような制度改正として今回お願いをしているところでありますし、改善点があれば、それは常時クリアをしながら、よりよいものを目指してまいりたいと思います。

○大平委員 呉市では、小中一貫教育で統廃合が進み、使わなくなった校舎はさっさと売り飛ばされてショッピングセンターが建っていたりしています。その学校に通っていた子供たちが本当にショックを受けているんですと先生たちもおっしゃっていました。
 この十年間で既に小中学校の一割に当たる三千校強が統合されています。しかし、それでもなお、文部科学省が決めている標準規模に満たない学校が、まだ小学校で全体の四六%、中学校で五一%あるということで、公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引を作成して、小学校では六学級以下、中学校三学級以下校を、学校統廃合等により適正規模に近づけることの適否を速やかに検討することとしており、また、七から八学級の小学校、四から五学級の中学校についても、学校統廃合の適否も含め今後の教育環境のあり方を検討することが必要と迫っています。
 こうした手引の作成と実施、そして今度の小中一貫教育の制度化をセットで出しているところを見ましても、呉市でもそうであるように、小中一貫の最大の狙いは、さらなる学校の統廃合と教員減らし、教育予算の削減にあるのではないでしょうか。小学校と小学校、中学校と中学校という横の統廃合だけではなかなか進まないので、小学校と中学校という縦の統廃合も制度化をして進めようということではないでしょうか。大臣、御所見をお聞かせください。

○下村国務大臣 全く違います。
 このたびの義務教育学校の制度化は、これまでの各地域の主体的な取り組みにより、小中一貫教育の成果が蓄積されてきた経過に鑑み、設置者が、地域の実情を踏まえ、小中一貫教育の実施が有効と判断した場合に、円滑かつ効果的に導入できる環境を整備することが目的であります。学校統廃合や教育予算の削減を目的とするということでは全くありません。

○大平委員 ごく限られた、かつ不確かなデータで、小中一貫教育はすぐれた教育を行う新しいタイプの学校だという宣伝を広めて自治体や保護者に実質的な統廃合を迫る、そのことを進める制度化を私はやるべきではないということを重ねて申し上げて、質問を終わります。
 ありがとうございました。