国会質問

2017年06月12日

不当な状況に対する抵抗力を育てる職業教育必要―参考人質疑(4月21日文部科学委員会)

衆議院会議録情報 第193回国会 文部科学委員会 第12号

○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
 三人の参考人の皆様、貴重な御意見、心から感謝申し上げたいと思います。
 まず、本田参考人にお伺いをいたします。
 本田先生の御著書を読ませていただきました。先ほどの趣旨なのかもしれませんが、教育の職業的意義という言葉を先生は使っておられます。この教育の職業的意義といわゆる職業教育というのは、先生の御説明で同じものなのか違うものなのか、御説明いただけたらというふうに思います。
○本田参考人 それをお話しし始めると、私、三時間ほどしゃべりそうなので、今どうしようかと思っているんですけれども。
 職業教育という言葉は古くからある言葉でして、しかも、先ほど来申しておりますように、何となくその位置づけが日本では低くなってしまっているところがあります。そこを発想をほぐしたい、あるいは、職業教育というと、それにぴったり対応したような、特定の分野の狭い教育ということが考えられがちなんですけれども、今の変化が速くなっているような職業世界に対応した教育というのは、これを学んだらこの職業がすぐできますとか、一生それで食べていけますとかいったような、そういうものではなくなっている。
 ですから、もっと柔軟で弾力性もはらんではいるけれども、しかし職業世界に意義があるような教育というものを、過去よりも難しくなっていると思いますけれども、教育機関は考える必要があるということを何とか表現したくて、職業教育という古い言葉を改めて使うのは人々に誤った連想を与えかねないので、新しく、職業的意義ということを言っております。
 それは、直接の対応をも含んでおりますけれども、間接的な連関であったりということまで含めて、教育内容、方法ということを考え直す必要があるということを表現しようとしました。
 以上です。
○大平委員 ありがとうございます。
 その上で、さらにお伺いします。
 今回提出されている法案は、深く専門の学芸を教授研究し、専門職を担うための実践的かつ応用的な能力を育成、展開する、こういう目標、目的を掲げておりますが、私、法案に至るまでの議論の経過を見ていますと、かなり産業側からの、産業側から見た職業教育という面が強いのではないかというふうに感じております。
 本田参考人は、御著書の中で、働く若者たちの立場からの、先ほど概観の説明がありました、教育の職業的意義について述べておられます。今、雇用の不安定化ですとか非正規雇用の拡大という中で、教育全体を通して、学生、若者に必要な、彼らが求めている職業的意義のある教育とは一体どういうものなのか、また、その観点から、本法案が目指している教育というのをどう考えておられるか、本田参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
○本田参考人 先ほど申し上げたことを補足しますと、教育の職業的意義には二つの側面があるというふうにずっと考えておりまして、産業界からの要請に適応するような人材、適応力が高いような人材を育成するという面と、今、実のところ労働市場は非常に荒れておりますので、それに対してきちんとノーを言う、違法な処遇などを是正していくことができる抵抗ですね、不当な状況に対してきちんと正当な抵抗を行っていくことができる力をつける。この両輪がないと教育の職業的意義は成り立たないということをずっと申しておりました。
 そういう意味では、今回の専門職大学あるいは短期大学においては、どちらかというと適応力がある人材の育成ということに重きが置かれているということは確かです。
 ただ、個人的に、そこにこれから設置基準などで盛り込んでもらいたいのは、今回のレジュメではちょっと曖昧な書き方になってしまっておりますけれども、今の各産業分野というのは、いい面ばかりでは全くないわけですね。農業分野であれ、観光分野であれ、情報分野であれ、非常にブラックな職場というのはあふれているわけですし、例えば農業分野では、GAP認証もないがゆえに輸出ができないような状況ということがあるわけです。そういう今の悪い状況というものをきちんと是正していくこと、ノーを言っていく、労働条件も含めて、そういう変革力を含めた教育課程というものをつくっていく必要があるのであり、産業界の要請、一方的に都合がいいような人材を育成されてしまっては、これは日本社会をむしろ疲弊させる、衰退させる方向に向かうだけではないかと考えております。
 以上です。
○大平委員 ありがとうございます。
 続きまして、小出参考人にお伺いをいたします。
 私大連合会は、先ほど来あります中教審のヒアリングの中で、中教審の中間報告で言われている新たな高等教育機関が行おうとしていることは、既に現在の大学や短期大学でも実施されている、なぜ新たな高等教育機関を大学体系の一部として制度化しなければならないのか、説得力のある説明がなされていないと述べておられます。
 冒頭の意見陳述の中でも、レジュメの二にもかかわるところかというふうに思いますが、改めて、具体的に、現在の私立大学でどのような職業教育が行われているのか教えていただきたいということと、あわせて、大事な論点ですので、若干重複をしますが、永田参考人、本田参考人にも、この法案で行おうとしていることは既存の大学ではできないのかどうか、御意見をいただけたらというふうに思います。
○小出参考人 キャリア教育と言われる言葉が昨今盛んでございますが、私立大学の中では、そのような教育をカリキュラムの中に埋め込んで、そして、大学四カ年の学業、人材養成、人間形成、そうしたものから社会へのアクセスをきちっとなそうとしている大学の、これは通常の形であると存じますけれども、これがなされていることは間違いございません。
 私は、西の方の、広島・呉にございますある大学に見学に参りました。そこで展開されておる様子は、西日本の中で唯一、大変高価な機械を導入して、そして、西日本におけるところの放射線技師をそこで養成しているんですと。しからば、その機器に関しては国の支援はございましたか、そんな立派な人材養成をしているんだからというお話を伺いましたが、そこそこの御支援はいただいているお話を聞いておりました。
 そのような医学の進歩にかかわるお話もございましょうし、昨今のAIにかかわる研究活動などについても、同様に、各私立大学の中では、それぞれの分野分野に応じて、多様な分野分野に応じてさまざまな展開をしておられる、それが、私立大学が養成してきている分厚い人材層、分厚い中間層の養成へと直結しているんだ、であるからして、今日、我が国は成熟化し、高度化した社会になっているんだろう、そんな自負を私立大学の連合の立場からは持っておるところであります。
○永田参考人 今の観点でございますけれども、一番わかりやすい説明の仕方はわかりませんけれども、現在の大学で目指している人材養成目的というものは、もちろん私学はそれぞれの建学の理念にのっとっているわけであります。その大学が機関として、こういう職業教育を主体としたものに切りかわるということは、ある分野がこれに転換していくということになります。
 我々にとっては、いろいろなことが勉強できる環境を整えることが非常に重要であって、しかも、実践的な職業分野に特化した大学をつくるとすれば、教員等も全てかえていかないとできません。ここでは機関を設置する制度化の法律の議論になっているわけでありますから、我々としては、複線化をそういう形で進めるというのではなくて、覚悟を持った大学が機関としてこういうものをやっていく。
 現在の機関がこれができるか。それは先生を全部かえないとできない。実務家教員にかえて、それから職員も先ほど言われたようにかえて、それは、もともと大学が思っている、目指していた人材養成の一部を捨てていくことになります。
 ですから、ここで明確に、これこれの要件でこういう人を育てましょうということが制度化されることが重要であって、それを取り入れるか入れないかは、あくまでも設置者や社会のニーズであって、その可能性を今回制度化という形でとっていただくというのは、我々にとってはフェアなやり方だと思っております。
○本田参考人 分野という面では、今、既存の大学でも非常にさまざまな学科などが創設されておりまして、観光であったり、あるいは冠婚葬祭であったりとか、アニメであるとか、そのような学科も既に存在します。ただ、分野という点では既存の大学でも既に存在するけれども、そこでの実践性が十分かどうかという観点からすると、まだ不十分であるといったような評価がもしかしたらなされてしまうようなケースもあるかもしれません。
 しかし、このように、既存の大学でもかなり取り組みはなされているのであって、そこに新しい今回の専門職大学が出てきたときに、やはりその間のフリクションということが非常に問題になってくるわけです。それをできるだけ避けて、かつ新しい教育機関を開設するとすれば、やはり、既存の大学にほぼないような、例えば手わざの熟練なども非常に重要になってくるような、理美容であるとか、あるいは高度なシェフとかパティシエ、ソムリエといったような、そういう事柄に関しては、既にあるのかもしれませんけれども、まだ既存の大学の中ではほぼない分野かと思いますので、そういう手わざの熟練なども伴いつつ、歴史などについても深い教養や知識を与えるような教育機関として新しく専門職大学ができれば、これは非常に平和的な共存というものは可能だと思います。
 そこで食い合ったりとか、侵入してくるとか、戦ったりというようなことが始まった場合に、両者にとってよい結果をもたらさないのではないかということを大変危惧しております。
○大平委員 ありがとうございます。
 私は、今職業教育を行っている機関への支援の充実こそ必要ではないかというふうに考えております。少なくない私立大学が定員割れを起こしている、こういうことも伺っております。その点で、やはり高等教育への国の予算が少ないということが何よりも問題だ、運営費交付金や私学助成の抜本的増加が不可欠だというふうに思います。
 小出参考人に改めてお伺いしたいと思います。
 今度の専門職大学を制度化することとの関係においてということも含めて、既存の大学も含めた財政支援のあり方やその額などについてどのようにお考えでしょうか、お伺いいたしたいと思います。
○小出参考人 ありがとうございます。
 先ほど来、このお話については、新しい大学の種別をつくられるときには別途の予算措置をもって支援をしていただきたいというお話を申し上げました。これは一貫してお願いをしておる話でございます。
 翻って、現在の私ども、最大の懸念を持っておりまする話は、私立大学の基盤的な経費と言われる経常費補助金につきましては、二十七年度決算の数値によりますというと、総経常経費の九・九%という状況下に置かれてございます。当初、昭和五十年の私学振興助成法で目標とされていたあの当時のことを思い出しますというと、二分の一をしっかりと確保した上で私学への役割、期待を申し上げていくというお話だったと存じます。ところが、現実はさような状況下にある。
 これは、今議員御指摘のとおり、この国の高等教育への公財政支出がすこぶる貧弱である、かてて加えて、国立大学と私立大学との間にあるファンディング格差というものが大きな問題になっているんだということを、私ども、強く思っているところであります。
 数値で申し上げるならば、学生一人当たりのこの国のファンディング格差の問題、国立大学生一人当たりには二百十七万円、私立大学生一人当たりには十七万円、そこに十三倍の格差が存在している。ともどもに大学を卒業したならば、この国を支え、この国の発展を力強く進めていく次世代のホープ、リーダーでございますので、この点については、格差是正の観点、そしてその前提となるところには、高等教育費を家計負担から脱皮いたしながら大いに支援をしていくことが、日本社会が今後大いに発展していく上の原動力になる環境整備であろう、このように思っておるところでございます。
 ありがとうございました。
○大平委員 ありがとうございました。終わります。